企業の規模を問わず、会計ソフトウェアの選定は重要な経営判断の一つです。日々の業務効率はもちろん、将来的な成長戦略にも大きく影響するため、慎重な検討が求められます。
米国で広く利用されているQuickBooksとDynamics 365 Business Centralは、どちらも実績のある会計ソリューションですが、その特性は大きく異なります。本稿では、それぞれの強み、弱み、そして具体的な機能について詳しく解説します。貴社にとって最適な選択肢を見つけるための一助となれば幸いです。
QuickBooksとDynamics 365 Business Central:概要
QuickBooksとDynamics 365 Business Centralは、どちらも企業の会計業務を効率化するために設計されたソフトウェアですが、ソフトが適用できる範囲と拡張性には大きな違いがあります。
- QuickBooks:
主に小企業向けに開発されたQuickBooksは、基本的な会計機能を網羅し、汎用性が高く、比較的安価に導入できる点が魅力です。シンプルな会計ニーズを持ち、小規模なチームで運営されている企業に適しています。
主な機能:
買掛金・売掛金管理
税務申告
給与計算
請求処理
財務諸表作成 - Dynamics 365 Business Central:
一方、Dynamics 365 Business Centralは、財務管理、サプライチェーン管理(SCM)、顧客関係管理(CRM)、プロジェクト管理など、多岐にわたるビジネス機能を統合した、中小企業をメインターゲットにしながらも高度な機能を有したエンタープライズリソースプランニング(ERP)システムです。対象企業の一例としては、成長段階にあり、財務だけでなく、事業運営のあらゆる側面を管理するための包括的なソリューションを必要とする企業などを、広範にサポートするようにも設計されています。
Dynamics 365 Business Centralの特徴:
多くの中小企業にとって、QuickBooksは初期の会計ニーズを満たす上では、十分な選択肢となり得ます。しかし、在庫管理が必要な場合や事業の拡大や業務の複雑化に伴い、QuickBooksの機能だけでは対応が難しくなるケースも少なくありません。
Dynamics 365 Business Centralは、使いやすさと導入のしやすさを両立しながら、企業の成長を強力にサポートする、拡張性の高いシステムです。一般的な会計ソフトとは異なり、企業の主要なビジネス機能を単一のプラットフォームに統合した、包括的なERPソリューションと言えるでしょう。このオールインワンシステムにより、財務管理にとどまらず、組織全体の業務効率と生産性を飛躍的に向上させることが可能です。
Dynamics 365 Business Centralの主な機能*:
- 財務管理: 総勘定元帳、買掛金、売掛金、固定資産管理、銀行照合など、財務会計全般を効率化。予算編成や財務諸表作成の自動化により、リアルタイムでの財務状況把握と効率的な会計業務を実現します。
- サプライチェーン管理: 在庫管理、購買管理、販売管理、倉庫管理など、サプライチェーン全体を最適化。効率的なサプライチェーン構築、コスト削減、変化する需要への迅速な対応を可能にします。
- 人事管理: 従業員データ、給与計算、福利厚生管理、業績評価などを一元管理。人事関連業務の効率化と従業員満足度の向上を促進します。
- 顧客関係管理(CRM): 営業案件管理、顧客とのインタラクション追跡、顧客サービス管理を通じて、リード、商談、顧客サービスのリクエストを一元管理。顧客エンゲージメントを強化し、顧客の行動や嗜好に関する貴重な判断材料となる情報を提供します。
- プロジェクト管理: 時間管理、経費管理、予算編成、リソース配分などのツールにより、プロジェクトを効果的に計画、実行、監視。プロジェクトを期日内や予算内での成功を強力に支援します。
Dynamics 365 Business Centralの強み:
- 拡張性: 企業の成長に合わせて柔軟に拡張可能。個別の要件に合わせたカスタマイズに加え、豊富なMicrosoft認定サードパーティ製ツールとの連携により、複雑なニーズにも対応できる高度なERPソリューションです。
- 統合型システム: QuickBooksが一般会計機能に特化しているのに対し、Business Centralは、財務・会計、サプライチェーン管理、在庫管理、顧客関係管理といった基幹業務を統合。ビジネス全体を包括的に管理・把握することを可能にします。
- 将来への対応: 多通貨対応、多言語対応、高度なプロジェクト管理機能、AIを活用した分析機能など、将来的な企業の成長と発展をサポートする先進的な機能を備えています。
- レポート機能: 詳細な財務分析やニーズに合わせた柔軟なレポート作成が可能。より多くの情報に基づいた迅速な意思決定を支援します。
Dynamics 365 Business CentralとQuickBooks:機能比較
QuickBooksの弱点 | Business Centralの強み | |
Business Management | 会計および財務機能に限定される | 業務全般含めた包括的なERPシステム |
基本業務機能は、3rd Partyやアドオンへの依存 | Microsoftアプリケーションとのシームレスな統合 | |
カスタマイズ可能範囲の制限 | 直感的で使いやすいインターフェース | |
小型パッケージのため、成長に追いつかなくなる可能性がある | クラウドベース | |
API(連携)機能の制限 | 多言語サポート | |
多通貨 | ||
在庫管理 | 在庫管理機能の制限 | 包括的な在庫管理 |
レポート機能の制限 | 部品表(BOM)管理 | |
監査証跡の制限 | 品目追跡–シリアル番号追跡、ロット追跡 | |
承認ワークフロー | QuickBooks Online Advanced版での提供となる | ワークフローにおけるイベントトリガー設定 |
単一レベルの承認のみ | ワークフローにおけるユーザーグループ設定 | |
請求機能の制限 | 承認ユーザー設定ページ | |
セットアップ支援機能 | ||
Microsoft Power Automateとの統合 | ||
セキュリティと監査証跡 | セキュリティ基準の低さ | 高度なデータセキュリティ |
ログイン/ログオフのトラッキングがない | 包括的な監査証跡 | |
マスターレコードの変更の監査証跡がない | データ変更追跡 | |
主要なエラーに対する脆弱性 | 履歴データログ | |
監査およびコンプライアンスツールの制限 | 変更ログエントリ |
QuickBooks vs. Business Central Dashboard

QuickBooksユーザーがDynamics 365 Business Centralに切り替える理由- 3選
QuickBooksユーザーがDynamics 365 Business Centralに切り替える理由
QuickBooksはエントリー的なステージでの会計ソフトとして市場で一定の地位を得ていますが、業務の効率化を目指す企業や成長段階に入った企業にとっては、機能面で物足りなさを感じることが多いのが実情です。
例えば、多くのQuickBooksユーザーがDynamics 365のような別のソフトを導入せざるを得ない理由としては、内部統制機能や在庫管理機能が不足などの状況を挙げています。 Quickbooks導入した後でもいずれかの段階で、Business Centralのようなシステムへの移行を検討する企業も少なくありません。
Microsoft Dynamics 365 Business Central ERP ソリューション
QuickBooksからDynamics 365 Business Centralへの移行
QuickBooksからDynamics 365 Business Centralへの移行は、適切な計画と準備があれば、スムーズに進めることが可能です。Microsoftでは、移行を容易にするための支援ツールも提供しています。
移行する主要データ:
- 顧客と仕入先
- 品目と在庫
- 勘定科目
- 総勘定元帳トランザクション
- 未処理の請求書と支払い
- 在庫のオンハンド数量
円滑な移行のためには、移行元システムの勘定科目体系とデータをBusiness Centralのデータ構造に正確にマッピングし、すべてのデータが新システム上で適切に機能するように連携させることが重要です。

QuickBooks Data Migration Extension – Business Central | Microsoft Learn
Business Centralに移行する利点:
- 一元管理されたデータ: 会計・受発注や在庫など業務データ含めすべてのビジネスデータが1か所に集約されることで、データの可視化や意思決定の迅速化が実現され、ビジネスインテリジェンスが向上し、監査面などでも安心でき経済的になります。
- 高度な機能: Business Centralは、AIでの業務サポート、拡張されたより充実したレポート機能、高度な在庫管理やトレーシング、多言語対応など、QuickBooksには見られない多彩な機能を提供します。
- インテグレーション: Microsoft 365(Excel、Outlook、Power Automateなど)とのシームレスな連携により、生産性が大幅に向上し、手作業によるデータ入力が大きく削減されます。
もっと読む:QuickBooksとDynamics 365の比較 – Calsoft Systems | ERP, Network, IT Services
ビジネスに適した会計ソリューションの選択
QuickBooksとDynamics 365 Business Centralの選択は、企業の規模、事業や業務内容、今後の会社の生産性向上や成長への取り組み方によって決まります。比較的小規模なビジネスで、シンプルな会計ニーズであれば、QuickBooksでも充分かもしれません。一方、将来の効率化や改善、事業拡張や市場の変化への対応、部門横断的なシステム化を目指すのであれば、Dynamics 365 Business Centralがより良い選択肢となります。
Calsoftがお手伝いできること
Dynamics 365 Business Centralへの切り替えをご検討されている場合は、Calsoftが導入の全工程を丁寧にサポートいたします。経験豊富なコンサルタントが、Business Centralと現在お使いのシステムとの統合、お客様のビジネスに合わせた最適なシステム構築や必要時にはカスタマイズ、そしてQuickBooksからの円滑な移行をご支援させていただきます。
Business Centralへの移行支援を通じて、お客様のビジネスが長期的に生産性を高め、継続的な成長する支援のために、最適なソリューションをご提案させていただきますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
関連情報:
- How to Migrate from QuickBooks to Business Central
- QuickBooksとDynamics 365の比較 – Calsoft Systems | ERP, Network, IT Services