Microsoft Dynamics AX2012からDynamics365 Finance & SCM (ファイナンスおよびサプライチェーンマネージメント)へのアップグレード
Dynamics AXは、マイクロソフトが中規模及び大企業向けに提供する主力のERP製品です。2002年のリリース以降、長年にわたり世界130の国や地域で導入されてきたソフトウェアですが、マイクロソフトから、2017年を最後にDynamics AXの新しいバージョンは今後リリースされないことが発表されました。
今後Dynamics AXのバージョンアップグレードが施行されず、もし古いままの“レガシーERP” 環境としてその後もDynamics AXを運用する場合は、システムパフォーマンスの低下・データ保全性・運用負担増加、社員や会社のITリテラシーの低下やオペレーション効率の低下などの種々の弊害が生じ、同時に情報漏えい・サイバー攻撃等の大きなリスクが生じ、多くの企業が早急な対応をせまられる状況にあります。
そこで今回の記事では、Dynamics AXの後継機で最新のクラウドソフトであるDynamics 365 for Finance and Operationsについての簡単な概要や長所の説明と、同時に実際のDynamics AX2012からDynamics 365 for Finance and Supply Chain Managementへのアップグレードプロセスを詳細に説明します。
Dynamics 365 for Finance and Supply Chain Managementについて
Dynamics 365 for F&SCMは、Dynamics AXの主要機能を引き継ぎながら、最新のクラウド型ERPとして様々なメリットが追加され、より強化されたERPソリューションです。以下にいくつかの追加機能をご紹介します。
Webブラウザベースのログイン
Dynamics 365アプリはWebブラウザ上で使用可能なため、コンピューターにプログラムをインストールする必要はありません。インターネットにアクセスできる環境であれば、どこからでもパソコンはもちろんスマートフォンやタブレットなどのデバイスからでもシステムを利用することができます。
新しいユーザーインターフェイス
AX 2012以降、F&SCMのユーザーインターフェースは大幅にアップデートされ、よりユーザーが使いやすいデザインになりました。最新のモダンなデザインは、ユーザーエクスペリエンスを大幅に向上させ、他のユーザーとのコラボレーションワークを容易にすることができます。このインターフェイスは個別にカスタマイズが可能で、各ユーザーはメインページの画面を必要に応じて自分で自由にカスタマイズができます。
Microsoft製品との統合
Dynamics 365 for F&SCMは、Microsoft 365(旧Office 365)、 Power Automate、PowerBI、 Dynamics CRM (現Dynamics 365 for SalesやCustomer Service)などのMicrosoftが提供するクラウド製品とシームレスに統合します。
PowerBIを使用したビジネスインテリジェンス
PowerBIを使用することにより、システムに蓄積された企業のデータを適宜自由に分析し、その結果から得られた情報をあらゆる業務活動に活用することができます。データ分析を用いたレポートの作成や共有、各種データ処理の作成により、経営者だけでなく全ての従業員が会社の状況を把握し、 各業務をより効率的且効果的に遂行できます。
グローバル検索機能
Dynamics 365 F&SCMのグローバル検索機能により、システム内のどこからでも、グループを横断して、アクセス可能な必要情報を簡単に見つけることができます。
AX 2012からF&SCMへのアップグレードプロセス
これからご紹介するアップグレードプロセスは、Dynamics AX 2012R2またはDynamicsAX 2012R3のいずれかのバージョンからのアップグレードのみサポートされています。
概要
Dynamics 365 F&SCMへのアップグレードを行うプロセスには、大きく分けて分析、実行、検証の3つのフェーズがあります。 次の図は、アップグレードの主要なタスクとプロセス、各フェーズで行われる作業を示しています。
1. 分析
分析フェーズでは、アップグレード作業全体に必要なおおよその工数を見積もります。この作業をDynamics 365 F&SCMのクラウドへのライセンス移行や実際の購入をする前に行うことにより、事前に必要な計画、作業工数と社内リソース、作業の流れやタイムラインを知ることができます。
プレビューサブスクリプションのサインアップ
プレビューサブスクリプションにサインアップについては、プレビューサブスクリプションにサインアップするを参照 してください。
アップグレード方法の選択
新しいライフサイクルサービス(LCS)プロジェクトというもので、アップグレードの方法を[ AX2012をDynamics365 for F&SCMにアップグレードする]に設定します。この方法は、AX2012からアップグレードするお客様向けに特別に作成されており、アップグレードに必要なプロセスの詳細と、プロセスに関するサポート資料を提供します。
アップグレードアナライザーの実行
アップグレードアナライザーツールは、現行のAX2012環境に対して実行され、まずアップグレードの事前準備するために必要な作業を特定します。これにより、アップグレードをより円滑に、費用を抑えて行うことが可能になります。
- データクリーニング ー データクリーニングツールを使用することで、データベースに蓄積されている必須機能に影響のないデータを識別し、不要データの整理を行います。
- SQLコンフィグレーション ー このプロセスは、現状のSQLの設定を確認して、その最適化を推奨してくれます。SQLが最適化されることにより、アップグレードプロセスに必要な時間が短縮されます。
- 廃止機能の確認 ー このプロセスは、現在のAXで使用しているが、アップグレード後には使用できなくなる機能を識別します。このプロセスを通して、現在のシステムとアップグレード後のシステムに必須な機能のギャップを早期に発見することができます。また、アップグレード後に使用できなくなる機能の代替案の検討や提案も行います。
詳細については、AX 2012からのアップグレード–アナライザーのアップグレードツール を使用した計画を参照 してください。
アップグレードツールの実行
この手順では、プログラムコードをAX 2012から取得・新しい形式に変換して、のちに開発者が作業を行う必要のあるコードを識別します。このステップは、コードのアップグレードのコストを見積るための基本情報となります。
詳細については、AX 2012からのアップグレード–コードアップグレードサービスを使用して作業量を見積もるを参照してください 。
テスト環境を構築する
テスト環境は、カスタマイズを除く、テスト用データと標準的なコードのみで構成された環境になります。このテスト環境を利用して新機能をテストし、現行のAX2012とDynamics 365 F&SCMの基本機能におけるフィット&ギャップ分析を行っていきます。テストはAzure上に環境を構築するか、自社のハードウェアで仮想マシン(VM)に構築して実行することができます。
詳細については、AX 2012からのアップグレード–分析用のデモ環境の展開を参照してください 。
プロジェクト計画を作成する
このステップでは、分析フェーズで得た情報をもとに、アップグレードプロジェクトのプロジェクト計画を作成します。プロジェクト計画には、以下の動作テストの詳細も含まれます。
- データアップグレードテスト
- 基本稼働テスト
- 機能テスト
- 上記テストに必要なリソースの割り当て
これらの情報は、アップグレードに必要な時間とコストを理解するのに役立ちます。
2. 実行
実行フェーズでは、分析フェーズで計画したタスクを実行します。実行フェーズに移行するには、Dynamics 365 F&SCMのソフトウェアを購入する必要があります。
LCS実装プロジェクト
実行フェーズでは、分析フェーズの最終段階で作成したプロジェクト計画に沿ってアップグレードを進めていきます。
ライセンスのサブスクリプションを開始すると、新しいLCSプロジェクトへのサインアップに関する詳細が表示されます。このプロジェクトは実装プロジェクトと呼ばれ、サブスクリプションを持っている限り利用が可能です。
AX2012準備タスクを実行する
アナライザーツールが検出し、アップグレードプロジェクト計画に文書化されたタスクを実行します。Microsoft Dynamics AXシステム管理者およびデータベース管理者(DBA)は、これらのタスクを完了する必要があります。
詳細については、AX 2012からのアップグレード–データアップグレードのアップグレード前チェックリストを参照してください。
コードのアップグレードを実行する
分析フェーズで計画されたコードのアップグレード作業を開発者が実行します。
この時点から、AX2012でのコード変更は緊急を要するコード変更に限定する必要があります。もし変更を加えた場合は、手動で新しいコードベースに移植する必要があります。
新しいコードを開発する
分析フェーズの「テスト環境を構築する」で行ったフィット&ギャップ分析の結果を基に、新しいコードを開発します。
データのアップグレード(開発環境)
コードのアップグレード作業が完了したら、データベースをアップグレードすることが可能になります。アップグレード後に問題が見つかった場合は、プログラムの修正を行います。
次の図は、アップグレードのプロセスを示しています。AX 2012データベースをバックアップしAzureにアップロード、Dynamics 365 F&SCM環境に復元してから、データのアップグレードを実行します。
詳細については、AX 2012からのアップグレード–開発環境でのデータのアップグレードを参照してください 。
データのアップグレード(テスト環境)
開発環境でのデータのアップグレードが完了すると、テスト環境で同じプロセスを実行できます。テスト環境では、ユーザーがアップグレードされたAX2012のデータとコードを使用してビジネスプロセスやシステム業務のテストできます。
次の図は、テスト環境でデータアップグレードを実行するプロセスを示しています。ここでの違いは、従来のSQLバックアップの代わりにBACPACツールが使用されることです。このツールはMicrosoft SQLServerとAzureSQLDatabaseの間でデータを変換するために必要です。これは標準のSQLツールであり、Dynamics 365 F&SCM固有のものではありません。
詳細については、AX 2012からのアップグレード–サンドボックス環境でのデータのアップグレードを参照してください 。
3. 検証
検証フェーズに入ると、アップグレードされたカスタムコードとデータを利用できる環境が整います。このフェーズでは、アップグレードされた環境が計画通りに機能するかの検証およびテストを行います。また、本番環境で運用を開始するための準備作業についても確認します。
カットオーバーテスト計画の作成・実行
ここでは、カットオーバー(本番環境導入)と呼ばれる、旧システムであるAX 2012から新システムDynamics 365 F&SCMへの切り替えを行う際の作業をご説明します。
カットオーバーには主に2つの作業があります。
技術的ワークストリームー この作業は、データのアップグレードをするためのプロセスです。まず、データをアップグレードするために必要なシステムのダウンタイムの時間を設定します。このダウンタイムの間、システムのデータベースは利用できなくなります。技術的ワークストリームでは、ダウンタイムが発生するため、通常ビジネスが行われていない時間にデータアップグレードを完了させる必要があるため、データアップグレードの作業工程をよく精査する必要があります。
機能的なワークストリーム ー データのアップグレード後、Dynamics 365 F&SCM環境でいくつかの設定作業が必要になります。これらのタスクは出来る限り文書化する必要があります。業務が行われていない時間内で、その他の技術タスクと組み合せて行う必要があるため、リソースも十分に割り当てる必要があります。
詳細については、以下を参照してください。
機能テスト
すべての日常業務プロセスを想定した機能のテストを実施します。これらのビジネスプロセスには、AX 2012での従来の旧プロセスと、Dynamics 365 F&SCMで初めて採用された新機能を含む新しいプロセスの両方が含まれます。
詳細については、AX 2012からのアップグレード–機能テストパスを参照してください 。
移行前のチェック
カットオーバー期間中に問題が発生する可能性を減らすため、移行前のチェックをプロセスに沿って十分に行うことをお勧めします。
- 運用開始の数週間前、遅くとも1週間前からは、AX 2012で(<module> Setupより下)のコード設定の変更を停止します。
- Dynamics 365 F&SCMのコード変更の停止に加え、設定変更も停止することをお勧めします。本番環境に影響がないことが証明されていない限り、これ以上の変更は許可しないことになります。
詳細については、AX 2012 からのアップグレード – 稼働の準備を参照してください 。
システム稼働
テスト環境(Sandbox Tier 2以上)でのアップグレードテストを完了し、テストカットオーバーも正常に完了した後は、業務時間外(週末や連休など)を利用して本番環境をアップグレードに行い、業務時間開始までに本番環境で稼働させます。
カットオーバー とは、新しいシステムを稼働させる最終プロセスに使用する用語になりますが、このカットオーバープロセスは、Dynamics AX 2012を停止し、Dynamics 365 F&SCMの稼働を開始する前に発生する作業が含まれます。
詳細については、AX 2012からのアップグレード–カットオーバープロセス(稼働開始)を参照してください。
カルソフトについて
カルソフトは、Dynamics の勃興期以前にあたる1999年から、正式にマイクロソフトよりDynamics ERPパートナー認定され、多くの実績と長い経験を有している数少ないパートナーです。Dynamics 365、AX、NAV、及びGPの分野で、マイクロソフトよりゴールドパートナーの認定を受けており、これまでにAXからDynamics 365 F&FCMへのアップグレードを含む多数のDynamics ERPソリューションのプロジェクトを成功に導いてきました。Microsoft Dynamics ERPソリューションが、御社のビジネス要件を満たせるか、今後のビジネスをどのように改善できるかなどお聞きになりたい場合は、お気軽にカルソフトまで日本語でお問い合わせください。